第3回「子どもはまだなの?」
『最終新幹線の妄想』

 美穂は郷里の奈良に帰るため最終ののぞみに乗っていた。高校まで地元の奈良県で過ごした美穂は、大学進学と同時に上京。都内の大学を卒業後、教材を販売する会社で事務の仕事に就いていた。そして社内恋愛の末結婚。その後も仕事を続けていたが、同じ会社にいる夫のことが仕事中もあれこれと気になっていた。パソコンに向かっているときも、昨夜の絶叫を思い出し、また今夜の快感のことを想像しては一人で興奮していて、仕事が手につかなかった。美穂は幸せのまっただ中にいたのだった。
 そんなある日、姑から「子どもはまだなのかしら?」といわれてしまった。たしかに、ほぼ毎晩のように夫婦の営みは継続しているのだが、お互いに子どもを作る気はなかった。元もと美穂の得意技がフェラチオだったこともあり、膣内よりも口内での発射の方が多かった。姑はそんなことは知らないだろうが、子どもを催促されたような気がした。「気にしなくていいよ」といってもらってはいたが、その夜「子どもがほしい」と美穂は絶叫していたのだった。しかし、いくら生で中出しをしても、妊娠するに至らなかった。
 そんなある日、職場の同僚から、交際中の男との間に子どもができ、でき婚をすることになったと聞かされた。彼女はその相手をそこまで愛していたわけでもないため、あまり嬉しそうではなかったが、美穂にはむしろうらやましかった。美穂は妊娠できないことに思い悩み友人に相談したりしたが、ただ授からないだけだとなだめられた。それからも、毎晩のように美穂は子作りに励んだ。
 それから半年ほどして、美穂は念願の妊娠を果たした。夫は美穂ほど喜んでいる様子はなかったが、美穂はとても嬉しかった。しかし姑は、いかにも子どもができて当たり前だといった反応だった。
 出産が近づくと、美穂は産休をもらい、自宅で静養することにした。夜の営みがなくなったためか、それとも係長に就任したためか、夫の帰りが遅くなることが多くなった。美穂は孤独だった。(つづく)


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