今回も、学術振興会特別研究員の方へのインタビューである。ただ、正直申し上げて、今回のインタビューは気が重かった。より正確には、インタビューの最中に苛立ちを覚え、腹が立つ場面もあった。 インタビューに答えてくださった児島さん(仮名)は、自分自身がやっていることを不正だと分かっているようだ。学術振興会が定める研究専念義務を児島さんは果たしていないし、果たす気もないらしい。児島さんに問題があることはいうまでもないが、こんな人物が採用され続けていることも見逃せないと思う。 この特集をやっていると知った方から、「知り合いに特別研究員に採用されているが研究していないやつがいる」という情報をお寄せいただき、児島さんにコンタクトを取ることにした。取材を申し込んだとき、自分をやり玉に挙げるための取材ならお断りだといわれたが、我々の活動の目的を説明し、あくまで特別研究員制度の問題を指摘するための資料にすること、児島さん本人が特定されることがないように配慮することを説明し、納得していただいた。その時、「それはおもしろい」と児島さんはおっしゃった。なんとなく、このあたりが引っかかったのだが… 取材場所を決める段階になり、私の方から児島さんがお住まいの付近までうかがうと話したところ、「その必要はない、こっちから出向く」とおっしゃった。理由を尋ねると、自分はタダで旅行ができる身分だから、取材ついでにのんびり骨休めでもしたいんだという。こちらとしては、交通費等の負担がなくなるため、たいへんありがたいのだが、こっちまでが共犯者であるかのような、罪悪感にさいなまれるのだった。(聞き手:梶本武信・大日本皇國党副総裁) 研究以外に利用される研究費 梶本 本来は私の方からお伺いするところですが、今日はわざわざありがとうございました。 児島 いいよ、どうせ旅行だし、自腹じゃないから。 梶本 あの、なんとなく分かるんですけど、それはもしかして、学術振興会の… 児島 そうだよ。科研費さ。使わないと余るからね。余ると事務方がうるさいから、何か使わないといけないんだけど、旅行ぐらいしか使う宛がないからね。 梶本 早速本題に入ってしまう感じですが、研究のために使うお金ではないのですか? 児島 タテマエはね。一応、「研究費」だし(笑) 梶本 研究のためには使われないのですか? 児島 ああ、だって研究する気無いからね。 梶本 えっ? でも、研究員なんですよね? 児島 そうだよ。 研究する気がない研究員 梶本 研究員なのに研究しないんですか? 児島 ああ、研究員というのはお金をもらうための口実だから。 梶本 しかし、採用されるためには申請をしなきゃいけないんでしょ? そして審査もある。 児島 形だけのいい加減な申請と審査があるね。申請書は本人が書かなくてもいい(注:本来はダメです。「ばれなきゃいい」という意味で使っておられると思われます)し、適当にそれらしく書いてれば通るよ。あんたたちも、その点は調査してるみたいじゃないか。 梶本 ええ、まあ。それは問題だと思いますよ。 児島 税金がどうのというなら、まずは自分たち(学振側)がやってることを改めてから、顔を洗って出直してこいって感じだね。限りある国の予算をぶんどってきて、それを適当にばらまく。そのシステムの中に組み込まれているだけなのさ。だから、つかってやってる自分たちは感謝されなきゃいけないかも知れないね(笑)。制度があっても、申請がゼロでは予算の行き先がなくなるんだからね。それはやつらにとっていちばん困るでしょう。ばらまく先がなくなったら、予算を削られて、独立行政法人も解散になってしまうから。だから、適当に審査して通して、ばらまくんじゃないかな? やつらにしても、自分の金じゃないわけだし、ばらまいたところで痛くもかゆくもない(笑)。 梶本 研究をしておられないことについて、悪いと思ったことはありませんか? 児島 ないね。学生だって講義サボって遊んでるやつはいるだろ? それをよそに中学・高校・大学と勉強ばかりしてきた。それで大学院まで来たんだから、ご褒美としてお金をもらってもいいと思っているよ。だいたいね、審査は今までのことを中心に評価するんだから、それで通った自分は悪いと思わないね。今までの努力と我慢が報われた気がするよ。 梶本 研究しておられないということは、普段は何をされているのですか? 児島 普通に働いてるよ。 梶本 えっ? 学振は兼業禁止では? 児島 はははっ、それもタテマエね。ばれたらやばいんだろうけど、まずばれないよ。ばれないように工夫してるし、そんなやつは他にいくらでもいる。 梶本 受け入れ先はどうなっているんですか? 児島 さぁね、どこまで把握してるか知らないが、研究してないことは分かっている。ときどき注意めいたことはされるが、相手にしていない。 梶本 そんなことが通用するんですか? 児島 向こうにしてみりゃ、研究員を受け入れていることに意味があるわけだから、籍を置いてくれてありがとうって感じだよ。 梶本 研究奨励金として支給される給与はどのように使っておられるんですか? 児島 「悪銭身につかず」って言葉、あるだろ。それと似たようなもんで、働かずして得た金は羽が生えたように消えていくよ。研究する気がなくても、研究してるふりだけしていれば、それも書類上でしていれば、勝手に振り込まれてくる。採用されてからというもの、金遣いが荒くなったと自分でも思うよ。それに、自分には別にちゃんと月々の給料があるわけだし、それで生活はやっていける。 梶本 これから、採用期間終了までどうなさるおつもりですか? 児島 このままだね。ばれたら採用を打ち切られるかも知れないけど、それはそうなったときのことだ。むしろ、スリルがあって楽しいじゃないか。見つけられるものなら見つけてみろ、そして採用を打ち切れるものならやってみろって感じですね。もう、ゲーム感覚(笑)。 研究意欲が湧かない理由 梶本 どうして、研究されないんですか? 児島 研究しても意味がないからだよ。仮にがんばって研究しても、博士号を取得できたとしても、将来はまったく保証されていない。そんな状況で、誰が真面目に努力する? よっぽどの極楽とんぼぐらいじゃないか? 三十代半ばになって、研究職に就くことを諦めたときにはもう遅いんだよ。でも、今ならまだ間に合う。だから、仕事をしている。それのどこが悪い? 梶本 じゃあ、今まで研究してきたのはなぜですか? 児島 まあ、それなりにおもしろかったということもあるし、知的好奇心を満足させるためだね。だから、その好奇心がなくなった時点で終わりなんだ。 梶本 研究する気がなくなったなら、自分から研究員を辞任するという選択もあると思いますが、そうなさらないんですか? 児島 そんなことしちゃ、ゲームオーバーだよ(笑)。 聞いていて何度も呆れさせられた。児島さんに問題があることはいうまでもない。私は児島さんを弁護するつもりは全くないし、こういう人が他にいないことを心から祈っている。 しかし、その一方で、私は児島さんのことを学術振興会に突き出すつもりもない。私が告発したところでなんの利益もないし、不正を見破ることは学術振興会の仕事であろう。 児島さんは、申請時点ではとても真面目な学生だったようだ。学部時代の成績も優秀で、それもあり、大学院に在籍しながら仕事もこなしていた。修士論文も優秀な成績で合格したようだ。そして、能力のある優秀な人材であるからこそ、研究以外に職を得ているのではないか。それを研究専念義務を理由に制限するというのは、その人たちの将来を考えていないのではないかと思えてならない。 次回は、特別研究員に採用され、採用終了後に職がなく路頭に迷っている人の話を取り上げる予定にしている。 お知らせ 我々、大日本皇國党は、自民党無駄遣い撲滅プロジェクトチーム文部・科学技術等担当部会の主査を努めておられる河野太郎代議士の事務所に宛てて、日本学術振興会の特別研究員制度の問題性を指摘するとともに、無駄な予算として直ちに同制度を廃止するよう求める文書を送付しました。引き続き、特別研究員制度の廃止を実現させるため、調査活動を続けて参ります。 |